『イリアちゃんの教育実習』 第一章 午前 「へ…? 訓練実習ですか?」 ギルドに呼び出された、わたしことイリアとティアナは、ギルドカウンターでそんな声をハモらせていた。 「ええ。あなたたち、2年前の主席卒業者じゃない? だから、訓練校の方から名指しできてるのよ。」 「…あそこは、あまり行きたくないのよね…」 そう呟くわたしの言葉に、 「…同感〜」 コクコクと頷く、ティア。 あまりいい思い出がないのだ。 ごろつきっぽいのが多いし。 「え〜と…なんでも、今回の依頼は特別にギルドポイントが100ポイントもつくらしいですよ。」 にっこり笑顔で言う係員のお姉ちゃん。 「100? まぢ?」 わたしとティアの声が見事にハモる。 「ええ。次世代ハンターズの教育が目的ですから。ポイントも大判振る舞いですね。」 ギルドポイントとは。 ギルドの依頼をこなすと、与えられるポイントの事である。 難易度によって、もらえるポイント数が違うのだが、森程度の探索なら、せいぜい1〜3ポイント、坑道 あたりでも30ポイント行くかどうかだ。 で、実をいうと、ハンターズランキングと言うものがあるのだが、 このポイントの獲得数で決まっている。 また、ポイントによって、商品と交換する事もでき、一例を挙げると、 赤い輪のリコのレプリカグッズなど、コレクター魂をそそる商品が揃っている。 「…てことは… いまわたしたちのポイントが…」 「…3457だね。」 即答するティアナ。 「100足すと3547か… トップのルナさんたちが、3721だから…」 「178?」 「174ですね。」 「うぁ…」 答えるティアに突っ込む係員のお姉ちゃん。 ちなみに、わたしもちゃんと174になったぞ。 …うそじゃないってば… 「おーもう少しで届くかも〜」 頬を赤らめて、そう言うティア。 ちょっと、恥ずかしかったみたいだ。 「よね〜 悪ガキをしごくだけで、100ポイント…」 確かに悪い話ではない。 「で、この依頼受けるんですか?」 相変わらずの営業スマイルで、聞く係員のお姉ちゃんに、 「もちろん、受けます!」 またもや、ハモるわたしたちだった。 「え〜こちらが、今日の模擬戦闘訓練を特別に見ていただく事になった、イリアさんとティアナさんだ。」 「よろしく。」 「よろしく〜」 わたしとティアが挨拶する。 「ひゅ〜よろしくな〜先生〜」 「手取り足取り教えてください〜」 「個人授業希望〜」 「…ぐふふ…」 ブリーフィングルームに集まった訓練生が好き勝手に吠えまくる。 「…全然変わってないわね、ここ。」 「うみゅ。」 小声で会話する、わたしとティア。 「…やるよ。」 「うみゅ。」 どだん! わたしは、近場で騒いでいた訓練生の一人を掴むと、いきなり派手に投げ飛ばした。 シーン… 一瞬で静まりかえる、ブリーフィングルーム。 「…あんまり、手を焼かせないでね♪ 手加減はするけど、生き死にはその人の運だから。」 にっこりと笑顔で言うわたし。 隣のティアもにこにこ笑顔だが、殺気はびりびりと感じられる。 いくら間抜けな訓練生だったとしても、これほどの殺気を感じられないようでは、ラグオルに降りても 生きていくのは無理だろう。 「…ふむ。ひとまずみんな、合格みたいね…」 すっかり静まりかえったブリーフィングルームが、それを如実に現していた。 「え〜と…じゃ、さっそく実習に移りたいと思います〜」 教壇に立ったティアがそう言う。 「テクニック系志望者は、わたしに。武器による戦闘を主体に希望してる方は、イリアちゃんについてい ってくださいね〜」 相変わらずののほほんとした口調である。 「では、各自、10:00にて、シュミレーションルームに集合!」 「イエス・マムっ!」 教官の一声で、ぞろぞろと訓練生がブリーフィングルームから出ていく。 「…って、いつからこんな軍隊みたいになったの?」 エシナと名乗った教官に聞くわたし。 「…わたしの趣味ですが、なにか?」 瓶底めがねの端をくいっと持ち上げながら、答える彼女。 「…なにか?って…しゅみ…ですか…」 いや、実際わたしの時にもいた。 自分の好きなようにやる教官が… それにしても、ここまで徹底はされていなかった気がするが… 「ごほん。そ・そうそう、一つ聞きたいことがあるんですが…」 「…なんでしょう?」 「万手のアニス…ここにいるって聞いたんですが…」 「…さぁ? そういう生徒は在籍しておりませんが?」 きらりっと、瓶底めがねが照明を反射して光る。 「…そうですか。…あなたも大変ですね。」 「?」 「いや。なんでもないです。」 ギルドの依頼で彼女の護衛をしている人物がいるという話は聞いていたが、 たぶん、彼女がそうなのだろう。 訓練校の教官程度に納まるような人物でないのは、纏うオーラのようなものでわかる。 この人はかなりできる。 わたしの直感がそう告げていた。 「…じゃあ、シュミレーションルームにご案内いたします。」 そう言うと、スタスタと歩いて行く、エシナさん。 その背中が、この話題には触れるな、と言っているようであった。 万手のアニス。 二年前、わたしたちを助け、ダークファルスを倒した、英雄。 ダークファルスを倒した後、行方がわからなくなっていたので、てっきり死んだものかと思われていたが、 つい最近、ひょっこり帰ってきたという噂が真しやかにギルドで流れていた。 ひどい傷を負っていたとか、記憶を失っていたとか、色々と尾ひれがついていて、どれが真実かはわか らないが、帰ってきたという事だけは確かなようだった。 確かな筋の情報では、現在、訓練校に通っていると聞いていたのだが… あの時の事も含めて、一度ゆっくりと話をしてみたいと思っていたんだけどね。 どうやら今回は諦めねばならないようだった。 「さって、じゃあ、実習を始めましょうか。」 シミュレーターに入ったわたしたちは、VR(Virtual Reallity)森に降りていた。 このVR森は、実際の森のデータをもとに作られているだけに、細部までかなりリアルにできている。 ティア率いる、テクニック集団は、ひとつ先のフロアに降り立っているはずである。 わたしの他は、それぞれの獲物を持った、訓練生が20人ちょい。 「でわ、軽く運動しましょ。」 わたしの言葉に?顔する、訓練生一同。 「全員でかかってらっしゃい。」 困惑の表情を浮かべる訓練生。 「って、先生素手で? いくらなんでも、それは…」 大柄の男が、ずいっと前に歩み出てくる。 「あら、随分なめられたものね。あなたたちひよっこが20人くらいいた所で、なんら戦力にもならないっ て事、教えてあげるわよ?」 ぴきっ あたりの空気が凍りつくのがわかる。 見た目自分とたいして変わらない小娘に、そこまで言われれば、キレるのも無理は無い。 「さ、おいで。わたしにセイバーを抜かせる事ができたなら、休憩にしてあげるからね。」 「言わせておけば〜!」 さっきの大柄の男がセイバーを最上段に振りかぶって、突っ込んでくる。 周りの訓練生は、様子見を決めたようで、掛かってくるのは、彼だけのようである。 ぎんっ 視線を死線に変えて、浴びせ掛ける。 要は殺気を込めただけなのだが… 「ぐ…」 最上段に構えたまま、ぴたりと止まってしまう、大柄の男。 まるで、金縛りにでもあったかのように。 いや、実際金縛りにあっているんだけどね。 「…どうしたの? そこからじゃ攻撃は届かないでしょ?」 その男の立ってる位置。 それは、わたしの間合いのぎりぎり一歩外だった。 ―本能。 彼の本能が、その一線を超えては危険だと認知しているのだろう。 「はぁ…世話が焼けるわね…」 殺気を少し弱めてあげる。 「く…このぉ」 金縛りから解けた男が間合いを詰めながら、苦し紛れにセイバーを振り下ろしてくる。 「そんな大振りの一撃が…」 ぶんっ 切れのないセイバーの一撃を、右足を軸に左足を引く形で体を縦にして、身をかわす。 「当たるわけないでしょ…」 勢いこんで倒れそうになる男の首筋に、すれ違いざまに手刀を落とす。 どさっ 追い討ちをかけられた男は派手に顔面から、地面に突っ込む。 「そんなんじゃ、ブーマだって倒せやしないよ? もう少し修行してきなさい。」 捨て台詞気味にそういうわたし。 正直ここまでレベルが低いとは… 「こりゃ…時間かかるなぁ…」 ぼそっと呟いた、わたしの眼前には、血相を変えた訓練生たちが殺到していたのだった。 ―20分後。 平然と立ってるわたしのまわりには、死体の山が累々と… もとい、成す術なく打ちのめされた、訓練生たちが横たわっていた。 「しっかし、これだけいて、一人も当てられないとはね…」 やや、あきれ気味に言うわたし。 その言葉に反応するものは、もう誰もいない。 「これじゃ、午後の実戦訓練も先が思いやられるわね…」 訓練生たちの顔色が、一瞬で変わる。 「じ・実戦…訓練…?」 「あら、聞いてないの? 午後は、班毎に別れて、VR森をクリアしてもらうわよ?」 「…まぢ…?」 立つ事すらできずに、うめくように言う彼ら。 「あ、ちなみに、わたしに一撃を入れられなかったから、お昼はカロリーモノメイトよ♪」 「…鬼…」 にっこり微笑むわたしに、なぜか絶望感を漂わせる訓練生達であった。 どっごーん 唐突に。 びりびりと地面が振動する。 「…あっちも終わったようね…」 それは、ティアのラ・フォイエが炸裂した音だった。 「死んでなきゃいいけど…」 ぼそりと呟くわたしだった。