第二章 午後 
 
 
「それじゃ、午後の実習訓練について、簡単に説明します。」 
 再びブリーフィングルームの教壇に立ったわたしは、そう切り出した。 
「班毎にわかれて、どらを倒してくる事。 以上。」 
しーん… 
 室内が静まり返る。 
 いや、もともと静まり返っていたのだが。 
「い・イリアちゃん、それは簡単すぎじゃない?」 
 ティアが呆れ顔で、そう言う。 
「そう? これで、十分だと思うけど… 仕方ないな〜」 
こほん 
 わざとらしく咳払いする、わたし。 
「まず、四人一組の班に分かれてもらいます。班編成は、エシナ教官に一任してあります。
次に各員の装備ですが、各々の職業の初期装備…例えば、ハンターならセイバー、レンジャーなら
ハンドガン、フォースならケインになります。それと、フレームとコアユニット。 
 あとはモノメイトとモノフルイドが各4個ずつ支給されます。」 
ざわざわ… 
 わたしの説明を聞いて、急にざわつき始める室内。 
「また、フィールドは各班ごとに用意されます。なので、鉢合わせや、共闘といった行為は一切ありませ
ん。ステージは、VR森1〜3。マップは各員にすでに配布されている通りです。 
 目標は、ドラゴン。これを倒せばクリアとなります。また、現実のラグオル同様、アイテムボックスが至
る所に配置されていますので、支給品以外の武器・防具・消費アイテムの補給は、現地にて行ってくだ
さい。」 
ざわざわ… 
 ばんっと教壇を叩くわたし。 
「いい? VRとはいえ、これは実戦訓練。本気でかからないと、下手したら死ぬわよ?」 
しーん… 
 静まり返る室内。 
 そう、VRとはいえ、ダメージはリアルに残る。 
 致命傷のダメージを負えば、死ぬ可能性もあるのだ。 
「なお、今回の特別ルールとして、メンバーの一人でも敵にやられた場合は、その時点で全滅扱いとな
ります。」 
しーん… 
 またも沈黙が辺りを支配する。 
「あ、それと一つ言い忘れたけど…」 
 全員が?顔をする。 
「わたしとティア特製のトラップが至る所に仕掛けられています。早い段階でトラップビジョンを見つけな
いと、なにもできずに終わっちゃうからね♪」 
 笑顔で言うわたしの一言に、訓練生全員の顔が青ざめていくのであった。 
 
「Dチーム、ステージ2エリア03で全滅。」 
 無感情な合成音声のオペレータがそう告げる。 
 ここは、シュミレーションモニタールーム。 
 シュミレーションルームに入っている訓練生全員の様子が、この部屋で全てモニターされている。 
「Aチーム、ステージ2エリア03で全滅。」 
「…散々なものね…」 
 オペレータが告げる情報を聞いて、モニターに目をみやりながら、そう呟く。 
 そのモニターでは、Cチームがちょうど、ステージ2エリア03に到達した所だった。 
「あら…このチームもトラップビジョン持ってないんだ…」 
 現れたヒルデベアの背後に回り込もうとする、ヒューマーが一人。 
 だが、凍結トラップに引っ掛かり、一瞬で身動きが取れなくなる。 
ばきんっ 
「うぁ…いたそ…」 
 隣でティアがぼそっと呟く。 
「Cチーム、ステージ2エリア03で、全滅。」 
 オペレータの声が再度そう告げる。 
「…トラップビジョンを取ったチームは?」 
「0、です。」 
 わたしの問いに、オペレータが即座に答える。 
「…もう少し、注意力が欲しいかな…」 
 トラップビジョンの入ったアイテムボックスは、シュミレーション開始時の一番初めのトランスポーター
の裏側にある。 
 少しでも後ろを振り向けば、気付く位置なのだが… 
 ここまで全チームが、ステージに下りるなり、後ろを見る事なくいきなり前進してしまっていた。 
「このままじゃ〜ラグオルに降りても、みんな死んじゃうね〜」 
 緊張感の欠片もない物言いで、ティアが呟く。 
「…わたしもここまでひどいとは、正直思っていませんでした。」 
 背後に立っていた、エシナ教官がそう言う。 
「明日から、厳しくやる必要がありそうですね。」 
 照明を反射して、きらりっと瓶底めがねが光る。 
「生き残りのチームは?」 
「4、です。」 
 わたしの問いにまたも即答する、オペレータ。 
「全滅も時間の問題ね…」 
 わたしの言葉にうんうん頷く、ティアとエシナ教官だった。 
 
「Gチーム、ステージ2エリア03で、全滅。」 
 ものの数分も経たないうちに、わたしの言葉は現実となった。 
 結局、どの班も、トラップに捕まり、ヒルデベアにぶん殴られると言う結末に終わった。 
「生存チーム、0。シュミレーションコード、11001、終了します。」 
 オペレータがそう告げる。 
「補習はどうしようか…?」 
 ティアに話しかけた瞬間だった。 
「トランスポーター作動。シュミレーションコード、11010を要求しています。」 
 オペレータの声が辺りに響く。 
「…コード11010、許可します。プログラムスタンバイ。」 
 平然とエシナ教官が言ってのける。 
「ちょっと待って。コード11010なんて、聞いてないわよ?」 
「…実は、入学希望者がいまして。ちょうどいいので、あなたのプログラムを少しいじって、入学試験を
させてもらおうと、そういう訳です。」 
「入学希望者?」 
 説明するエシナ教官に、思わずそう言ってしまう。 
 たしか、もう時期ライセンス試験だったはずだけど… 
 こんな時期に入学試験をやるなんて、聞いた事もない。 
「って、そんな事より。あのプログラムを改良したって言ったって、素人じゃ確実に死にますよ? 
訓練生の有様を見たでしょう?」 
「…普通の素人なら、ですけどね。」 
 妙に含みを持たせた言い方をする、エシナ教官。 
(食えないひと女性…) 
 わたしが思った、そのとき。 
「あーーーっ!」 
 唐突に、ティアの声がモニタールームに響き渡る。 
「どうしたの? ティア。」 
 わたしは、ティアが指差しているモニターを見やる。 
「…この人…アニス…」 
 ぽつりと呟く、ティア。 
「アニス…? って、万手のアニス?」 
 モニターに映った人影は、かなり小柄な体格に、肩口までのピンク色の髪。 
「これが…アニス?」 
 こんな少女が、ほんとにアニスなのか。 
 わたしが疑った瞬間だった。 
 ジゴブーマ三体に囲まれた彼女の姿が、敵の陰に隠れて見えなくなったかと思うと、 
 次の瞬間、三体のジゴブーマが八つ裂きにされていた。 
「…何…? 今の…」 
 モニターでは何が起きたのか、わからなかった。 
 彼女が手にしている、えもの武器は、ダガーだ。 
 推測ではあるが、かなりの速さで斬りつけたのだろう。 
 ジゴブーマの腕が振り下ろされるまでの間に、最低でも9連撃。 
 一匹あたり、3発は入ってるはずである。 
 わたしの疑問は、それで吹き飛んだ。 
 彼女が、万手のアニスなのだ。
「教官? アニスはいないって仰りませんでしたっけ?」
背後に立ってるエシナ教官を一睨みする。
「ええ。 在籍はしていないと、言ったはずですが?」
 それが何か?と言わんばかりの物言いだった。
(ほんとに食えないひと女性ね…)
「…ペレータ、プログラムの変更を。コード11010Aに。」 
「何をなさるおつもり?」 
 わたしの言葉に、静かに反応する、エシナ教官。 
「…ちょっと、お話しをしてくるだけです。」 
「ダメ…と言ったら?」 
 彼女の言葉に、やや脅しの色が混ざる。 
「…あなたを、殺すわ。」 
 殺気を込めた笑顔でそう言うわたし。 
 ばちっと、お互いの視線がぶつかり、火花を散らす。 
 二人の殺気で、あたりの空気が凍りつく。 
―一触即発。 
 そんな言葉がぴったりだった。 
 視界の端っこで、ティアがおたおたしているが、この際関係ない。 
「…コード、11010A、スタンバイ。」 
 静寂を破ったのは、エシナ教官だった。 
「教官?」 
「どうせ、言っても聞かないでしょう?」
「…」 
「ただ、これだけは忘れないで。 女は病み上がりで本調子じゃないって事。」 
「…わかりました。」 
 わたしは、一つ頷くと、シュミレーションルームへのトランスポーターへと急ぐのであった。

ぶぅん
辺りの景色が一瞬で変わる。
ここは、本来ドラゴンが出現するはずのエリア。
広い、円形状の空洞になっている。 
「アニスさん、センタードーム付近のヒルデベアも片付けちゃいました〜 もうじき、そっちに行くと思いま
す〜」 
 ティアの声が、空洞内に響く。 
 と、同時に、粒子が一点に集まり始める。 
 その粒子は、急速に人の形を作っていき、瞬く間に一人の少女へと変わっていった。 
「にゅ?」 
 彼女の第一声が、それだった。 
 無理もない、本来ドラゴンが現れるはずの場所に、自分と同じ背格好の女の子が一人立っているん
だから。 
「…初めまして、って言った方がいいかな?」 
「…あなた…たしか…」 
「あら、覚えててくれたんだ。たしか、記憶喪失だって聞いた気がするけど…」 
「にゅ。あいつ倒した後のことは、ぜっんぜん覚えてないのだ!」 
 ぶいっと、右手を突き出す彼女。 
 しかも、笑顔で。 
…自慢するような事なんだろうか…? 
「ま、いいわ。あの時、助けてくれてありがとう。わざわざ、姉の敵まで討ってもらって…礼を言うわ。」 
「全然。大したことしてないのだ〜」 
 やや照れ気味に言う彼女。 
 わたしの込めた皮肉にはまったく気付いてないようだ。 
「そうね…あなたにとっては、大したことじゃないのかもしれない… でもね…」 
「?」 
「あれから、わたしがいくら腕を上げても、ハンターズとしての結果を残しても、わたしは、いつまで経っ
ても、見えないあなたの背中を追い越す事ができないのよ!」 
「そんなに深く考える必要はないのだ。」 
 変わらぬ笑顔で言う彼女。 
「…才能に恵まれたあなたには、わからないでしょうね…わたしの苦しみが…」 
「…」 
「わたしは、いまだにあなたという幻影に取り憑かれているの。」 
「…」 
 わたしの言葉を静かに聞く彼女。 
「今日、いまここで、あなたという幻影を取り払わせてもらうわ。」 
「…やる気?」 
 笑顔のままで。 
 しかし、わずかに殺気がこもったように感じられた。 
「避けては通れないのよ…わたしにとってはね。」 
 負けじと、殺気を込めるわたし。 
「…勝っても負けても…後悔するよ?」 
「あの時のわたしのままだと、思わないでね!」 
 
ばんっ 
 お互いの殺気が弾ける。 
 わたしは一気に間合いをつめるべく、跳躍する。 
 跳びながら、コアから抜き放ったセイバーを、落下の力を利用して、最上段から振り下ろす。 
 彼女もコアから取り出した、二本セットのダガーを頭上で交差させて、 
 わたしの一撃を受け止める。 
がぎぃんっ! 
 衝撃で、わたしの身体が一瞬宙にと留まる。 
「うぁぁっ!」 
 わたしは相手を押し切らんと、裂迫の気合を放つ。 
 不意に彼女の力が抜ける。 
 と、同時にきっちり三歩分後ろに退がる。 
 支えを失ったわたしは、やや前のめり気味に着地する。 
 そこに一瞬の隙が生まれる。 
 だが、相手のえもの武器はダガー。 
 明らかに相手の間合いの外だ。 
 勝手に安全と判断した、わたしが次の攻撃に移ろうと顔を上げた瞬間。 
 背筋に寒気が走った。 
 本能に身を任せて、右に跳ぶ。 
 刹那、ずんっという音と共に、ソードの刃先が、わたしの元いた地点にめり込む。 
 彼女はいつの間にか、ダガーからソードに持ち替えていた。 
 
「…万手のアニス…そうだったわね…」 
 転がって間合いを取ったわたしは、ゆらりと起き上がりながら、そう呟く。 
 地面に刺さった大剣を、引っこ抜くと、ぶんと軽々と一振りする彼女。 
「…本気で行くわよ…」 
 静かにそう言うと、わたしは再び間合いを詰めるべく、駆け出す。 
 彼女の周りにフォトンが集約する。 
 形となって現れたハンドガンを手にした彼女は、闇雲に発砲してくる。 
「…そんなもの!」 
 銃口とトリガーを引く指に注意していれば、避けるのはそれほど難しくない。 
 彼女もそれが解っているみたいで、どうやらただの時間稼ぎだったようだ。 
「!」 
 嫌な予感がしたわたしは、左に大きく跳びすさる。 
「…ラ・フォイエ。」 
 次の瞬間、彼女の放ったテクニックが炸裂する。 
 爆音と共に凄まじい爆風がわたしを襲う。 
(…間に合わない…?) 
 その爆発は、わたしの想像を超えるものだった。 
「くぅ…」 
 爆風に吹き飛ばされながらも、空中で身体を捻って、なんとか着地する。 
 と、同時に左手に気配が生まれる。 
「そこ!」 
 飛び散る砂塵で遮られた視界の中で、気配を頼りにセイバーを左に薙ぎ払う。 
がきん 
 が、手応えがなかった。 
「しまっ…」 
 わたしが捕らえたのは、地面に突き立てられた大剣だった。 
 不意に右手に殺気が生まれる。 
 慌てて、仰向けに倒れ込むわたし。 
ぶんっ 
 わたしの眼前を、セイバーの軌跡がよぎる。 
 わたしの前髪が何本か宙を舞った。 
「っ!」 
 後転の要領で、後ろに跳び再び間合いを計るわたし。 
 お互いセイバーを持ったまま、対峙する。 
(万手のアニス…ここまで強いとは…これで本調子じゃないなんてね…) 
 そう思ったわたしは、ふと彼女の表情を見て、愕然とする。 
笑顔。 
 まるで、この戦いを楽しんでいるような…そんな笑顔だった。 
「…随分と楽しそうね?」 
 皮肉を込めて言うわたし。 
 だが、彼女は、 
「うん。すっごく楽しい♪」 
 笑顔のまま、そう言ったのだった。 
(この娘…わからないわね…) 
 一瞬生じた迷いを振り払うかのように、みたび三度、間合いを詰め、上段からの振り下ろし、返す刀の振り上
げ、さらに袈裟斬りの三連撃を放つ、わたし。 
 しかし、そのことごとくを、彼女にいなされてしまう。 
 逆に横薙ぎ、縦薙ぎと、2連続攻撃を繰り出してくる。 
「こ…のっ!」 
 2撃目の縦薙ぎを受けずに、半身そらしてかわしたわたしは、相手の柄元をかち上げる。 
ばきんっ 
 音と共に、彼女のセイバーが宙を舞う。 
 が、こちらが攻撃に転じる前に、彼女はすでにダガーを取り出していた。 
 結局、どちらから仕掛けるでもなく、また間合いの探りあいになる。 
 
―近距離よりやや長い間合いのわたし。 
―近接戦闘の間合いの彼女。 

自分の間合いに入った方が決定打を与えるであろう。
ふと、彼女の表情を伺うと、相変わらずの笑顔であった。
それが、わたしの神経を逆撫でする。 
「気にいらないわね…」 
「?」 
 ぱちっと柄元のスイッチを押し、セイバーの刃を消すわたし。 
「戦いの最中に笑うなんて!」 
 わたしは、叫ぶと同時に突っ込んで行く。 
 セイバーの刃は消したまま。 
 一瞬、ためらいが彼女を支配するのがわかる。 
 横手に構えた刃無しセイバーを、構わず横薙ぎに払う。 
 そして、彼女の身体に、本来あるべきはずの刃が当るであろう瞬間を狙って、柄元のスイッチを押す。 
びゅぅん 
 微細な振動音と共にフォトンの刃が突然現れる。 
 まったく予測していないであろう動きに、彼女が一瞬焦る。 
 が。 
ぶんっ 
 次の瞬間、わたしのセイバーは空を斬っていた。 
「そんな!」 
 驚愕の声をあげるわたし。 
 あの瞬間、彼女はバク転して避けた。 
 あの一瞬で、咄嗟にそこまで動けるなんて… 
 彼女の天性的なセンスに、舌を巻くわたしだった。

(もう、何度目だろう…こうして対峙するのは…)
時間にして、およそ、5分かそこらだろうか。
実際には、もっと長く感じられるのだが。
「…けり決着をつけるわよ…」
「いつでもこぉ〜い!」
わたしの言葉に、明るく返す彼女。 
(? 今の…気のせい?) 
 不意に、違和感を感じた。 
 わたしの感じた違和感が何かを確かめるべく、接近して、セイバーを打ち下ろすわたし。 
がきん 
 右手のダガーで受ける彼女。 
 次いで、右からの薙ぎ払い、袈裟斬り、返す刀の横薙ぎと、連撃を打ち込む。 
 そのことごとくを受ける、彼女。 
 表情は、相変わらず笑顔。 
 だが… 
ぎんっ 
 上段からの振り下ろしを、クロスさせたダガーで受けた彼女の表情が、わずかに歪むのを、わたしは
見逃さなかった。 
 
『ただ、これだけは忘れないで。彼女は病み上がりで本調子じゃないって事。』 
 
 不意にエシナ教官の言葉が思い出される。 
 徐々に、だが確実に、彼女の動きが鈍ってきている。 
 なにより、さっきから防戦一方になっているのがその証拠だ。 
ばきん 
 お互いの武器同士が当った衝撃で、自然間合いを取る形になる。 
 彼女の表情は相変わらず笑顔のままだ。
だがよく見ると、かなりの汗をかいているようだった。 
「…やめましょ。」 
 唐突にわたしはそう言うと、セイバーを持つ手を下ろしていた。 
「?」 
 怪訝そうな顔をする彼女。 
「本調子じゃないあなたを倒しても、意味がないわ。」 
 わたしがそう言った途端、がくっと膝をつく彼女。 
「はは、久々だから、疲れたみたい…」 
 やや苦しそうな笑顔で言う彼女。
やはり限界だったようだ。
だが… 
「でも、楽しかった〜♪」 
 ほんとに楽しそうに言う彼女。 
「楽しい?」 
「うん。強い人と戦うの楽しいよ〜」 
 この娘って… 
「それにしても、あなた強いわね。今のままでも、正直勝てたかどうかわからないわ。」 
 わたしの言葉に、だが彼女は、 
「全然、そんな事ないよ… わたしなんて…」 
 ふっと、悲しそうな表情をする。 
(? 何かあったのかしら?) 
 彼女も何かを背負っている、そんな雰囲気だった。 
「ね、名前。聞いてもいい?」 
 唐突に彼女が言う。 
 気付けば、表情がもとの笑顔に戻っている。 
「わたし? わたしの名前はイリア。 イリア=レスよ。」 
「イリアちゃんか〜 ねね、また遊ぼうね♪」 
 とびっきりの笑顔でそういう彼女。 
「遊ぶって… ぷっ…あははっ」 
 笑うしかなかった。 
 彼女にとっては、この戦いも遊びの一つだったのだ。 
 なにか、むきになってたわたしがバカみたいに思えてくる。 
 器が大きいのかどうかは知らないけど、この娘、おもしろい。 
 わたしはそう思った。 
「あはは。ね、今夜の食事、一緒にどう? おごるわよ?」 
 笑いながら言うわたしに、しかし彼女は困った顔で、 
「にゅ〜 ごめんね。マナちゃんの手料理が待ってるのだ〜」 
 そう言ったのだった。 
 
 しばらく、彼女と話をして… 
 
「あなた、ハンターズになるんでしょ? なら、ラグオルで待ってるからね。」 
「うん。」 
 笑顔で頷く彼女。 
「そこで、今日の決着をつけましょう。ね、約束。」 
 そう言ったわたしは、小指を差し出す。 
「約束〜♪」 
 そう言って、彼女が小指を絡めてくる。 
「指切った!」 
 楽しげな二人の声が、空洞に響くのであった。

「お疲れ様でした。」
廊下でばったり会った、エシナ教官がすれ違い様に会釈しながらそう言う。
「お疲れ様でした。 あ、ちょっと…」
「何か?」
呼び止めたわたしの声に、怪訝そうに振り返る彼女。
「…ありがとう。 あなたと、彼女にもそう伝えておいてくれませんか?」
わたしの言葉に、
「…承知しました。 確かに伝えておきます。では、これで…」
それだけ言うと、彼女はくるりと踵を返して、歩いて行ってしまった。
「…ありがとう…」
もう一度、すでに姿の見えなくなった彼女に、そう呟くわたしであった。
 
 



―数日後 
「ちょっと、どういうことなんですか!」 
 ギルド内にわたしの声が響き渡る。 
 みんなの視線が注目するが、そんなもんは関係ない。 
「100ポイントつくって話だったじゃないですか〜」 
 横で、ティアも頬を膨らませて、そう言う。 
「いや、ですから…未来のハンターズを、7人も病院送りにされて、あちらの担当者様が大変、ご立腹な
んですよ〜」 
 困り顔でそう説明する、係員のお姉ちゃん。 
「あれは…でも、そのプログラムを容認したのは、向こうの教官じゃない。わたしたちは、あんなにレベ
ルが低いなんて、聞いてなかったわよ?」 
「訓練生のレベルが、何か関係あるんですか?」 
「うぐ…」 
 お姉ちゃんの鋭い突っ込みに絶句する、わたし。 
「むしろ、訓練生の入院費を請求される所だったんですよ?」 
(ま・まずい…) 
 背後でそろ〜っと逃げ出してるティアに気付く。 
「それを、ギルドの御偉いさん方の配慮で、請求だけは免れたっていうのに。」 
「ちょ…あ、いい。もう、ギルドポイントはいいから…」 
 回れ右して、立ち去ろうとするわたし。 
「いいえ。今日こそ言わせてもらいます。だいたい、あなたたちは…」 
 が、がしっと係員のお姉ちゃんに襟首を捕まれてしまったのだった。 
 
 結局、今回はただ働きの上に、3時間にも及ぶ係員のお姉ちゃんの説教(わたしだけ)という、なんと
もありがたくない報酬まで戴いてしまったのだった。 
「ティア〜帰ったらただじゃおかないんだからね〜!」 
「ちょっと、聞いてるんですか!」 
 ギルドにわたしと係員のお姉ちゃんの絶叫がこだまするのであった。 
 

教訓:やりすぎにはきをつけよう。まぢで。




イリアちゃんの教育実習  〜完〜



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